編集後記

歴史とは何か。

わたしが「歴史とは、解釈のことである」という歴史家E・H・カーの思想に出会ったのは、高校時代の授業だった。そのときのわたしは、その意味を十分に理解していたわけではない。ただ、その言葉のインパクトは強烈に残り、気づけば自分が日本史を教える立場になっていた。そして、この時の授業は、今やわたしの授業の核となっている。

そもそも歴史に残されていることは、「真実」なのだろうか。出来事そのものが過去に存在したとしても、それをどのように拾い、どのように結び、どのような意味を与えるかという「解釈」によって、歴史はいかようにも姿を変える。何を選び、何を選ばなかったのか。その選択の積み重ねによって、わたしたちは「歴史」と呼ばれる“真実らしきもの”を手にしているのだ。

そしてもう一つ、当時のわたしが歴史を学ぶ上で得た視点。それは、「歴史とは、為政者だけのものではない」ということ。

教科書には、政治をつかさどった人物や、世の中を動かす大きな出来事が記される。しかし、その時代を生きたのは、名前を残さなかった無数の人々でもあった。彼らの“なんでもない”暮らしの中に、喜びや葛藤があったからこそ、その時代は確かに存在した。しかし、多くの場合、それは「農民」や「庶民」という名で一括りにされ、「のりこさん」がいたことはそのうち誰も思い出さなくなる。

もちろん、それは仕方のないことなのだが、今を生きる一庶民としてはなんともいえない歯がゆさを感じる。だからこそ、この20年史には「ふつうの人」を残したいと思った。

こうして創られたのが、本書『百人百声 -リツモリ聞き書き20年史-』である。

100人の卒業生および本校関係者に、100人の在校生がインタビューを行い、その聞き書きをもとに構成された本書は、誤解を恐れずにいうならば、あまりにも「ふつう」過ぎるがゆえに、“本来ならば”残らなかった本校の20年である。語られたこと、語られなかったこと。選ばれた言葉、選ばれなかった言葉。そのすべてを含めて、本書は一つの「歴史」のかたちを成している。(もっとも、その編集にあたっては、語りを書き記して日本最古の歴史書『古事記』を撰した太安万侶に、どこかで自分を重ねてみるという特異な遊びも忘れなかったことを、あえて付しておきたい)

実は、この「歴史とは解釈のことである」という思想は、歴史だけでなく、他でもないこの学校で初めて教師となった「わたし自身の教育活動をどう捉えるか」という問いにも深く重なっている。

教育には、正解がない。あの日の授業や目の前の関わりが、生徒たちにとってどのような意味を持ったのか、すぐにはわからないことの方が多い。それでもわたしたちは、いつかどこかで、その「答え」を知りたいと思ってしまう。あの時間は、あの声かけは、よかったのだろうかと。

だからわたしは、卒業生たちの語りを通して、18年間のこの問いに対する答えを得たかったのだと思う。

中学・高校時代を振り返りながら語られる思いは、当時の出来事に新たな意味を与え、現在の自分へとつながるストーリーを描いていた。そこに記されているのは、それぞれの現在から見た一つの解釈にすぎない。それでもなお、彼らの過去が、今やさらにその先へとつながる“線”になっていると感じたとき、「あれでよかったのかな」と少し安堵したくなる自分がいた。

この感情は、単なる自己満足なのかもしれない。あるいは、教育に携わる者のエゴと呼ぶべきものなのかもしれない。だが同時に、こうした時間や関わりそのものすべてを含めて「教育」と呼ぶのではないか、と今は静かに納得している。

本書に収められているのは、100の事実ではない。100の声である。

それぞれの声は、その人自身の現在を通して浮かび上がるものであり、同じ出来事であっても決して一つには収まらない。この学校の20年もまた、ひとつの歴史として固定されるものではなく、こうした無数の声の重なりの中に存在しているのだと思う。そしてその声は、この先の20年、50年、100年も、それぞれの時代を生きる人々によって新しく解釈され、紡がれていくのだろう。

最後に、本書の制作にあたりご協力いただいたすべての方々に、心より感謝の意を表したい。

語り手として貴重な経験を共有してくださった卒業生・学校関係者の皆さま、真摯に耳を傾け、その言葉を紡いだGLコース生徒の皆さん。原稿の添削に力を貸していただいた「アベンジャーズ」ことOB・OGの先生方、企画全体をサポートしていただいたGLコース、総務部、学校執行部の先生方へ、この場を借りて深く御礼申し上げる。さらに、インタビューの場を提供してくださった守山市民ホールをはじめ、リーフレット・HP制作にかかわっていただいた外部関係者の皆さま、本企画を支えてくださったすべての皆さまに、改めて心より感謝申し上げたい。

2026年7月26日
撰者(編集長) 田辺記子

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