歴史は語る 主役は若者
─日本の若者政策を考える─
第27回参議院議員選挙投票日を目前に控えた7月17日、イギリスが16歳選挙権を導入するとのニュースが飛び込んできました。
英国のスターマー政権(労働党)は17日、現在は18歳以上の選挙権年齢を16歳以上に引き下げると発表した。2029年までに実施される総選挙以降、全ての選挙で適用される。(1) |
記事によると、オーストリアやブラジル、アルゼンチン、ドイツの一部自治体、欧州議会がすでに16歳選挙権を導入しているとのことでした(1)。もし16歳選挙権、つまり「高校生選挙権」が実現したら日本社会の未来は明るいのでしょうか。私は、選挙権年齢を引き下げるだけでは不十分だと考えます。
日本では9年前に18歳選挙権が導入されましたが、若者世代の投票率は伸び悩んでおり、「政治への関心の低さや不信感などの原因が背景にあるとみられる。平成28年以降の国政選挙で、60代の投票率は60~70%台であるのに対して、10~20代は30~40%台だった。直近の令和6年衆院選では10代が39・43%、20代が34・62%にとどまった。(2)」とあります。
さらに、投票率の低さとの関係でよく指摘されるのが、日本と海外の18歳意識調査の結果です。
日本財団は2月に実施した62回目の18歳意識調査で、日本・アメリカ・イギリス・中国・韓国・インドの若者各1000人(17~19歳)に「国や社会に対する意識」を聞きました。まず自国の将来について「良くなる」と答えた日本の若者は全体の15%、自身の将来について「夢を持っている」は60%といずれも6カ国の中で最も低い数字でした。〔中略〕このほか「自分の行動で国や社会を変えられると思う」は46%、「自分には人に誇れる個性がある」が約54%とこちらも6カ国中最下位となるなど、他国の若者に比べ日本の若者の自己肯定感や自己効力感が低い実態が数字にも表れています。(3) |
一般社団法人日本若者協議会代表理事の室橋祐貴氏は、これまでの日本の大人達が、「若者を未熟であり、権利の主体ではなく、支援・保護対象と見なすまなざし」や、「対等な社会の一員ではなく、「支援・保護」対象として見ているために、大人が若者のために『アドバイス』をしてあげる」という考え方を持っていたことが、上記の根本原因であると指摘しています(4)。大変説得力のある見解です。
こうした状況を打開すべく、政府は将来の日本社会を担う子ども・若者の健全な成長と社会参加の促進を意図して、様々な法改正および政府機関の設置をすすめてきました(各種サイトより筆者が整理)。
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滋賀県は、こうした動きにいち早く対応し、県庁組織として「子ども若者部」を設置(改組)、この4月には「滋賀県子ども基本条例」を施行しています。
すべての教育関係者が、こうした政策動向に対応した取り組みをすすめなければなりません。学校では、クラスや生徒会組織を通じた生徒自治の活動を活性化し、学校運営に生徒が主役として「参画」するしくみの構築が重要です。
最後に、興味深い数字を紹介します。
7年前の数字になりますが、閣僚(大臣)の平均年齢の国際比較(2018年)によると、OECD平均53.1歳に対し、日本はダントツの62.4歳、アメリカも61.3歳と高い一方、英国51.1歳、カナダ50.4歳、アイスランドが最も若い45.1歳となっています(5)。日本は政治の世界も超高齢社会なのです。
しかし、160年前は違いました。幕末の志士たちの年齢を見て下さい。
長州藩で尊皇攘夷・討幕派の拠点となった松下村塾を27歳で立ち上げた吉田松陰は、24歳でアメリカへの密航を企図し失敗、29歳で獄死(安政の大獄)。
松下村塾入塾時の年齢は、伊藤博文16歳、久坂玄瑞17歳、高杉晋作18歳(高杉は24歳で奇兵隊を結成)。
明治維新時、勝海舟の45歳が最高齢、木戸孝允35歳、大久保利通38歳。
歴史は、若者が社会の主役であることを物語っているのです。
注釈
(1) 毎日新聞サイト「英国、選挙権年齢を16歳以上に引き下げへ 1969年以来の変更」(2025/7/17)
https://mainichi.jp/articles/20250717/k00/00m/030/310000c
(2) 産経新聞サイト「国政選での若者の投票率、30%程度と低迷続く 大学生らが『投票所はあっち』で呼びかけ」(2025/7/19)
https://www.sankei.com/article/20250719-V5NCB5V5YVJGFDOHF5TJQN6WDQ/?outputType=theme_election2025
(3) 日本財団サイト「日本財団18歳意識調査結果 第62回テーマ『国や社会に対する意識(6カ国調査)』」(2024/4/3)
https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/pr/2024/20240403-100595.html
(4) 室橋祐貴『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書、2024年)
(5) サイト「閣僚(大臣)の平均年齢の国際比較」
https://honkawa2.sakura.ne.jp/5238f.html