「全員サッカー」で夢に近づいた夏
─サッカー部インターハイ観戦記─
福島第一原子力発電所から南へ20kmに位置する、Jヴィレッジ。14年前の原発事故の際には、収束対応の前線基地として全施設を提供、2019年の営業再開まで、福島復興のシンボルとなった場所。ある種の感慨を抱きながら、7月26日、私は令和7年度全国高等学校総合体育大会(インターハイ)サッカー競技大会会場に向かいました。
真夏の太陽が照りつける下、多くの保護者、卒業生、教員が駆けつけ、応援団はえんじ色一色に。また、立命館附属高校サッカー部がインターハイに出場するのは史上初ということもあり、立命館学園を代表して森島朋三理事長自ら2泊3日態勢で参戦。部員による応援体制も準備万端、バスドラムの力強いリズムに乗って、いよいよ試合開始です。
滋賀県予選では全試合を1点差で勝利し(PK含む)、しかも複数得点を挙げた選手がいないという経緯は、全員で得点し全員で守り切る「全員サッカー」のチームであることの証です。全国初の舞台でも、リツモリらしさを発揮して欲しいとの思いで、私もえんじ色のハリセンを叩いて応援しました。
1回戦の相手は、全国大会常連の強豪校であり、数多くのプロ選手を輩出している佐賀東高校。ブルーとえんじのカラー対決となりました。
試合開始から互角の展開となりましたが、前半のウォーターブレイク直後、ついにリツモリが先制のゴールを決めます。均衡が破られた瞬間、応援団の盛り上がりが最高潮に達します。
後半はかなり攻め込まれ、苦しい展開が続きますが、堅いディフェンスで相手の得点を許さず、虎の子の1点を全力を挙げて守り続けます。そして、ついに試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、応援団の喜びが爆発しました。インターハイ出場だけでもすごいことなのに、初出場にして初勝利を挙げるとは……。まさに、リツモリらしい「全員サッカー」の面目躍如たる価値ある初勝利でした。
そして興奮覚めやらぬ翌朝、会場に到着すると、すでに応援団は再結集しています。今朝は、高校3学年主任の藤田教諭の姿も見えます。
2回戦の相手は強豪のシード校、浜松開誠館高校。全国初勝利の勢いに乗りたいところでしたが、試合が始まってみると完全に相手ペースで展開し、気がつけば前半で4失点。後半は、まずは1点を返すべく果敢に挑みますが、何度かつかんだチャンスを生かし切れず、連戦から来る疲労も相まってか、結局0-7で試合終了となりました。全国のレベルがどういうものかを思い知らされた試合となりました。
しかし、試合後の選手達の表情には、次を見据える眼差しがありました。
1回戦で得点を挙げた李川晃瑛選手(3年)は、ネット記事のインタビューで次のように語っています。
2試合やって全国のレベルを知ることができた。佐賀東戦は自分たちが思っていたプレーができて、自信になりました。得点ができて、勝ち切れたのは大きい。初の全国一勝だったので大きな自信になりました。開誠館での大敗を頭に残しながら、次全国に出た時は1回勝つだけでなく2回、3回と勝って目標の全国1位を取っていきたいです。(1) |
保護者のみなさんも、口々に「初出場、初勝利だけでも良くやりました。次につながる貴重な経験です」と語り合っていました。 試合後のフィールドに吹き抜けるさわやかな夏の風を感じながら、私は、応援団のみなさんとともに会場を後にしました。
ところで、日本サッカー協会前会長の田嶋幸三氏は、自身が海外のサッカー文化を学んだ経験から、サッカー選手が自分の言葉で自分の考えを明確に伝えるコミュニケーションスキル(言語技術)を身につける重要性を説いています。十数年前になりますが、私も国語科教員として「言語技術」のキーワードに誘われて著書を拝読したことを覚えています(2)。
選手のみなさんには、今回の試合経験を分析・言語化し、徹底的な話し合いを通じて個人とチームの課題を明らかにして欲しいものです。そして、今年の冬には、バージョンアップした「リツモリ全員サッカー」を見せてくれることを期待しています。
注釈
(1) サイト「高校サッカードットコム」 https://koko-soccer.com/report/4040/6531-2025inhikaieikan-ritumeimoriyama
(2) 田嶋幸三『「言語技術」が日本のサッカーを変える』光文社新書、2007年。