なぜ漫画はおもしろいのか
─非愛読者の思いつき的仮説─
─非愛読者の思いつき的仮説─
世間の中学生・高校生には漫画好きが多いと思いますが、私はこれまでの人生で漫画をあまり読んできませんでした。
ただ、いわゆる「人間ドラマ」的な長編作品は、いくつか読んできました。例えば、テレビドラマの原作『JIN-仁-』『Dr.コトー診療所』等です。最近では、まだ連載中ですが、『キングダム』は新刊が出る毎に手に取っています。
先日のブログで、原作小説と映像作品の比較について、「読んでから観るか、観てから読むか」のキャッチコピーを引き合いに論じました(1)。漫画はその両方の要素、つまり「読みながら観る」という性格を持っており、文字で表現する小説、映像と音声で表現する映画・ドラマ、それぞれが持つ長所を活かし、短所をカバーするという、実は非常にすぐれたジャンルなのではないかと、最近考えています。
それぞれの長所・短所は以下の通りです。
つまり、文字と絵を組み合わせた漫画は、両方の長所を活かし、短所をカバーできるわけです。さらに、吹き出しの形や文字のデザイン、擬態語・擬音語、コマ割りやページ構成等、映像とは異なる漫画特有の技法にも秘密がありそうです。
また、映像作品との比較でいうと、漫画だからこそ可能となる表現があるのではないかとも思っています。
例えば、『キングダム』は古代中国の戦国時代を舞台に、秦の始皇帝による天下統一を、主人公の将軍李信(りしん)の成長を軸に描いた作品で、アニメ、映画にもなっています。先日、映画『キングダム』シリーズをいくつか鑑賞してみましたが、原作漫画の世界観と比較して、実写映像の限界を感じてしまいました。特に、何十万人が参加する戦闘シーンは、屈強な将軍をものすごく巨大に描いたり、刀一振りで何十人もの兵士が吹き飛ばされたり、デフォルメ(芸術的変形、誇張表現)という漫画ならではの特性を活かしてこそ、より魅力的でインパクトのある表現が可能となることを確信しました。
以上は、思いつきの域を出ない仮説に過ぎませんが、一つの原作が、小説、ドラマ、映画、漫画、アニメーションと多彩な作品形態に広がりを見せる現代文化の発達課程は、生徒のみなさんの興味深い探究テーマになり得るのではないでしょうか。
漫画の話題ついでに、先日、漫画家の小畠泪(おばた・るい)さんとお話しする機会がありました。
小畠さんは、滋賀県を舞台とした話題の小説『成瀬は天下を取りにいく』コミカライズ版の作画を担当されており、現在、第三巻まで刊行されています(2)。「成瀬」の世界観が独自のテイストで描かれ、揺れ動く中高生の内面が生き生きと表現されています。ふだんあまり漫画を読まない私も作品に思わず引き込まれました。
実は、小畠さんは守山市在住で、本校のあるプロジェクトに協力いただくことになっています。内容はまだヒミツですが、新進気鋭の漫画家とリツモリとのコラボレーションに乞うご期待下さい。
注釈
(1) 「校長独言45」(2025年8月25日)
https://www.mrc.ritsumei.ac.jp/blog-principal/blog_principal-209567/
(2) コミカライズ版『成瀬は天下を取りにいく』1巻〜3巻(原作:宮島未奈、構成:さかなこうじ、作画:小畠泪)新潮社、2024〜2025年。コミカライズ版『成瀬は信じた道をいく』は2026年刊行予定。