今年のノーベル賞は、「日本人ダブル受賞」が世界の注目を集めました。

まず、「免疫を制御するしくみの発見」により大阪大特任教授の坂口志文さん(長浜市出身)がノーベル生理学・医学賞を受賞。続いて「金属有機構造体の開発」により、京都大学特別教授の北川進さんが同化学賞を受賞するという快挙が続きました。

ただ、私が注目したのは、次の記事でした。

肝臓病患者らでつくる「東京肝臓友の会」〔中略〕スタッフの古川祥子さん(44)は、8歳の時に自己免疫性肝炎と診断され、20代後半には原発性硬化性胆管炎も発症した。いずれも根本的な治療法はない難病。ステロイドや免疫抑制剤など、症状を抑えるために10種類以上の薬を服用し続けている。
古川さんは「坂口さんが選ばれたことで、自己免疫疾患の患者に注目が集まったことがうれしかった。世の中の理解が進んでほしい」と願う。「制御性T細胞を使った画期的な治療法や薬が出ることを待ち望んでいる」と期待を込めた。(1)

なぜ私がこの記事に注目したかというと、インタビューに答えている古川さんが私の知人だったからです。彼女の言葉は、ノーベル賞受賞研究の意義を端的に物語っています。

本来私たちの体を守るはずの免疫(めんえき)細胞が暴走し、体を攻撃してしまう「自己免疫疾患」という病気があります。坂口さんが発見したのは、免疫細胞の一種である「制御性T細胞」が免疫の暴走を制御する働きがある、という点でした。この発見は、根本的な治療法が確立していない、古川さんのような難病に苦しむ人々にとって希望の光となったわけです。

こうした医学研究は、人間のいのちに関わるため、その意義がはっきりしています。しかし、あらゆる「学び」には意味があるにもかかわらず、「受験に合格する」「テストで高得点を取る」ことに焦点が当てられすぎ、「何のために学んでいるのか」が見えなくなることがよくありませんか。日本の学校における伝統的な「勉強」にはその傾向が強かった、と言えます。

その反省からか、数年前から、日本の検定教科書は変わりつつあります。

「こんなことを勉強して、将来何の役に立つんだろう」。高校生のそんな声にこたえるべく、来春から高校で使われ始める教科書では、学びとキャリアのつながりを「見える化」しようと各社が工夫をこらしている。数学と直結しなさそうな弁護士を、あえて数学の教科書に登場させた出版社も。新学習指導要領で、キャリア教育がより重視されることを受けた動きだ。
ノーベル賞受賞者、研究者や技術者、専門職……。理科では、第一線で活躍する人たちを紹介する欄が随所にあり、高校で学ぶ知識が仕事にどう役立つかを伝えている。ある社の担当者は「学習内容と社会とのつながりに気づいてもらうため、さまざまな職種の人のインタビューを載せた」と話す。(2)

本校は、立命館学園の一貫教育をすすめる中学・高校ですので、多くの生徒は受験勉強をしません。中学段階から立命館大学の各キャンパスを訪問し、研究の様子を体験します。高校生は、自らの興味関心に基づき、探究する学びを通じて学部選択を考えます。高校FTコースは、滋賀医科大学との連携プログラムやアメリカ・ニューヨーク研修を通じて、将来の学問研究を見据えた長期的視野に立って、短期的目標として大学受験合格をめざしています。本校は中高大院一貫教育をすすめる学校として、「何のために学ぶのか」を問い続けてきました。

 

昨日、国立京都国際会館を会場に、立命館創始155年・学園創立125周年記念式典が開催され、仲谷総長が25年後を見据えた力強い宣言を行いました。最後にその記事を引用して、本稿を終わります。

立命館大などを運営する学校法人立命館の創立125周年式典が18日、京都市左京区の国立京都国際会館で開かれ、法人関係者や卒業生ら約1000人が節目を祝った。
首相などを務めた西園寺公望が1869年に私塾として開き、1900年、立命館大の前身・京都法政学校が設立された。現在は2大学と付属中学・高校4校、小学校1校を運営し、計約5万人が学ぶ。
式典では、大学院を修了した華道家元池坊の池坊専好次期家元が生け花を実演。仲谷善雄総長は「150周年を迎える2050年に向け、世界最高水準の研究大学を目指す。研究、教育、社会貢献が一体となって価値を創造するため若者の志や夢を実現するためすべての力を結集する」と語った。(3)

 

注釈

(1) 産経新聞サイト(2025年10月7日)
https://www.sankei.com/article/20251007-B3XIY7R4AJKQLDCNMBUEVELKGQ/

(2) 朝日新聞サイト(2021年5月29日)
https://digital.asahi.com/articles/ASP5G4VWRP56UTIL00P.html

(3) 讀賣新聞サイト(2025年10月19日)
https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20251018-OYO1T50030/