他者比較で一喜一憂しない自分軸を持て
─宇宙飛行士・野口聡一の生き方─
─宇宙飛行士・野口聡一の生き方─
先日、全国の私立大学附属校教員が集まる研究集会(通称「附属校サミット」)が、立命館中学校・高等学校で開催され、参加してきました。
記念講演「挑戦をやめない生き物を人類と呼ぶ」の講師として、宇宙飛行士・野口聡一氏が登壇。野口氏は、3回の宇宙飛行に成功し、世界で初めて「3種類の宇宙帰還を達成した宇宙飛行士」としてギネス世界記録を認定されています。
前回のブログでも紹介しましたが、立命館大学は宇宙地球探査研究センター(ESEC:イーセック)を設置し、「人類の生存圏の維持と拡大への貢献」をテーマに次世代研究にとりくんでいます。野口氏は、現在、立命館大学学長特別補佐、ESEC研究顧問・教授として、立命館大学の宇宙研究推進に尽力されています。
さて、当日の講演では、野口氏が幼少期に「サンダーバード」(人形劇によるイギリスのTV番組)やアニメ「銀河鉄道999」から宇宙を意識したこと、高校生の時にスペースシャトル1号のニュースや宇宙関連の書物を読み、当時日本人が不在だった宇宙飛行士をめざそうと思ったこと、相談を受けた担任の先生が「困ったね……」とつぶやいたこと等、ユーモアを交えたエピソードが語られました。
教員対象の講演でしたので、後半は学校における教員集団のチームづくりについての大変興味深いお話となりました。
その後、講演に触発され、著書『どう生きるか つらかったときの話をしよう』を拝読したところ、野口氏のこれまでの人生が決して順風満帆ではなく、2回目の宇宙体験の後、「苦しい10年間」があった事実を知り、非常に考えさせられました。
野口氏は次のように述べています。
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僕の苦しみの根本的な原因は、「自分はどういう人間なのか」「自分が本当にやりたいことは何か」といったことを、他人の価値観や評価を軸に考えていた点にありました。 〔中略〕自分一人でアイデンティティを築き、人生の方向性や目標、ミッションを決めるという経験をせず、他人の価値観や評価に身をゆだねてしまうと、たとえ競争に勝って目標を達成しても、組織の中で成果を出して認められても、目標を達成したり組織を離れたりすると同時に自分のアイデンティティや生きる方向性を見失ってしまいます。(1) |
そして、「本当に後悔のない人生を送るためには、どうすればいいのか(1)」を考え抜き、苦しかった10年を経て、答えを見つけた野口氏は、NASA(アメリカ航空宇宙局)やJAXA(宇宙航空研究開発機構)を退職し、自分の足で歩く決意をしたそうです。
私は以前のブログで、他者との比較という「ヨコの評価」で一喜一憂するのではなく、過去の自分との比較によって今の自分を確認する「タテの評価=自己評価」の大切さを述べたことがあります(2)。これは、「メタ認知」(自分自身の思考や行動を客観的に認識・分析すること)であり、「自分軸」を持つということでもあります。私にとっては、野口氏がそれに重なる指摘をされていたことが、大変印象的でした。
野口氏は、宇宙飛行士という、ほんの一握りの人にしかなれない職業に就いたわけですので(競争率573倍の狭き門だったそうです)、他者との競争という意味では「勝者」に違いありません。しかし、その後40歳を過ぎてから、他者との競争に一喜一憂することの弊害を自覚し、後悔のない人生を送るためには「自分一人でアイデンティティを築き、人生の方向性や目標、ミッションを決めるという経験(1)」の大切さを指摘されたことの、勇気と謙虚さに私は感銘を受けました。
「自分軸」を持つことの大切さを、野口氏の人生経験からあらためて教えられました。
注釈
(1) 野口聡一『どう生きるか つらかったときの話をしよう 〜自分らしく生きていくために必要な22のこと〜』アスコム、2023年。
(2) 「校長独言28」
https://www.mrc.ritsumei.ac.jp/blog-principal/blog_principal-175375/