教室を飛び出し、リアルな社会へ。
─藻と水運の再生に挑む生徒たち─
─藻と水運の再生に挑む生徒たち─
とある週末の放課後。校長室に、目の輝きがひときわ強い8名の高校1年生がやってきました。彼らは、学校から「やりなさい」と言われたわけでも、成績のために活動しているわけでもありません。自らの「知りたい」「変えたい」という純粋な好奇心だけで、琵琶湖の未来を探究し続けているメンバーです。
私は常々、「これからの社会で最も求められる資質は『主体性』である」と伝えています。ただし、主体性にもレベルがあります。用意された枠組みの中で手を挙げることも主体性ですが、彼らのそれは次元が違います。自分たちで問いを立て、アポイントを取り、大人を巻き込んでいく。まさに本校が目指す「ゲームチェンジャー」の萌芽を、彼らの言葉の端々に感じたひとときでした。
彼らが、現在の探究活動を開始したきっかけは、昨年7月に本校を会場に開催された「世界湖沼の日プレ・フォーラム」(滋賀経済同友会主催)でした(1)。このイベントの運営に立候補した4名を中心に仲間の輪が広がり、現在の活動につながっています。
彼らが取り組んでいるテーマの一つが、琵琶湖の厄介者とされる「藻(水草)」です。
一般的に、水草といえば「船のスクリューに絡まる」「腐ると臭い」「景観を損ねる」といったネガティブなイメージが先行します。実際、県やボランティアの方々が莫大な労力をかけて除去作業を行っていますが、刈っても刈っても生えてくるのが現実です。
しかし、彼らの視点は違いました。「除去」ではなく「共存」できないか。「Water Centric(水中心の社会)」のコンセプトを知った彼らは、琵琶湖博物館の学芸員の方へ取材に行きました。水草が生えるには「水深7mまでの光が届く場所」「波が穏やか」「砂地」という条件が必要であり、だからこそ断崖の西側ではなく、遠浅の東側や南湖に集中するのだという地形的根拠。そして、かつては肥料として重宝されていた歴史。
彼らは、「2050年には、藻があることを前提に楽しむ社会を作りたい」と考えました。そのアイデアは独創的です。藻に含まれる鉄分をガラスに混ぜて美しい緑や青色を出す工芸品としての活用。あるいは、船に乗ってゲーム感覚で藻を刈ることを「エンターテインメント」にしてしまうという発想。「ゴミ」というレッテルを剥がし、そこに「アート」や「遊び」という価値を見出す。このリフレーミング(枠組みの転換)の力こそ、イノベーションの源泉です。
もう一つのチームは「船」に着目しています。彼らは、琵琶湖に唯一残る「杢兵衛(もくべえ)造船所」を訪ね、造船技術の継承と水運の衰退について学びました。
琵琶湖大橋開通以降、車や鉄道の利便性に押され、移動手段としての船は役割を終えつつあります。スピードでは陸路に勝てない。では、船の価値はどこにあるのか。
彼らが出した答えは、「Move(移動)」から「Stay(滞在)」への価値転換でした。「速く着くこと」を目指すのではなく、「湖上で過ごす時間そのもの」を商品にする。インバウンド観光客向けに、畳を敷いた船で靴を脱いでくつろいでもらう体験。あるいは、ビワイチ(自転車一周)を楽しむ人々のための、自転車ごと乗れるショートカット船。さらには、海と違って閉鎖水域である琵琶湖の「流されても県外には行かない安全性」を逆手に取り、災害時の避難所や湖上キャンプとして活用するという提案も飛び出しました。地域の課題を、地域の特性を活かして解決しようとする姿勢には、高校生とは思えない頼もしさがあります。
活動報告を聞いて、私が最も心を動かされたのは、彼らの「マインドの変化」です。
活動を始めた当初、彼らは専門家や企業の社長といった大人たちとうまく話せるだろうかと心配していました。しかし、勇気を出して飛び込んでみると、大人たちは真剣に話を聞き、親身になって相談に乗ってくれた。「大人も、自分たちと同じなんだ」という気づき。これが、彼らの背中を大きく押しました。
また、ある生徒は、イベントで失敗した経験を語ってくれました。しかし、そこで腐るのではなく、「失敗したからこそ、次はこうしようと思える」と前を向く強さを手に入れていました。「留学して視野を広げたい」と、自らのキャリアを真剣に考え始めた生徒もいます。
教室の中だけでは、この学びは得られません。教科書には載っていない「リアルな社会」との接点が、彼らを急速に成長させているのです。
学校は、生徒を管理する場所ではなく、生徒が社会へ飛び立つための「発射台」であるべきです。彼らのように、既存の枠を超えて挑戦する生徒がいることは、本校の誇りです。
高校1年生にして、ここまでの視座と行動力を持った彼らが、卒業する頃にはどんな「ゲームチェンジャー」に育っているのか。もしかすると、2050年の琵琶湖の景色を変えるのは、今日ここにいた彼らかもしれません。
注釈
(1) 「校長独言43 若者は『今』を変えるチェンジメーカー ─世界湖沼の日プレ・フォーラムを本校で開催─」
https://www.mrc.ritsumei.ac.jp/blog-principal/blog_principal-207393/