「人」という字の物語
─中学卒業生へのメッセージ─
─中学卒業生へのメッセージ─
昔、中学校が舞台のテレビドラマで、先生役の主人公が言いました。
「人という字は、人と人とが互いに支え合って生きている」
それに対し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の茄子田(なすだ)理事長は、宇宙飛行士選抜試験合格者を前に、次のように語りました。
「みなさんも一度は思ったことでしょう。人という字は本当に支えあっていると言えるのだろうか?どう見ても、右側の負担のほうが大きくないか?」
確かに、「人」という字をよく見ると、短い方の画が長い方の画を全力で支えているように見えます。茄子田理事長は続けます。
「人という字は支えあっているのではなく『支える者』がいて、『その上に立つ者がいる』」
そして、宇宙飛行士たちにこう告げます。
「あなた方は、表舞台にたち宇宙へ飛び立つのです。我々はそれを支える発射台に過ぎませんが、あなた方を宇宙へ送り出すためならば全力で支える覚悟です!」
実はこれ、漫画『宇宙兄弟』で描かれた架空の話なのですが、私は妙に納得してしまいました。そして、この「自分が誰かに全力で支えられている」という感覚を、みなさんもつい最近、身をもって体験したのではないでしょうか。
ある生徒は、先日実施された海外研修後のアンケートにこう綴っています。
「ホストファミリーに対して英語を理解できない申し訳なさで大号泣していました。だけど、2週間だけだと言い聞かせて、自分が分かる単語や文章を頑張って話していたら、英語が出てくるようになりました。たくさんの人に支えられて、幸せをたくさんもらいました。人生は山あり谷ありってこういうことだなって学べました」
みなさんはこの3年間で着実に成長しました。しかし、忘れてはなりません。みなさんが表舞台に立ち、成果を残すことができたのは、誰かに支えられてきたからだ、ということを。
毎朝お弁当を作ってくれた家族。部活動の指導をしてくれた顧問やコーチ。困ったときに相談に乗ってくれた友人たち。そして、時には厳しく、時には温かく励ましてくれた多くの大人たち。短い方の画が長い方の画を全力で支えるように、多くの人が、全力で皆さんを支えてきたのです。私たち教職員も、微力ながら「発射台」の一部として、皆さんを支えてきたつもりです。
ここで大切なことがあります。 この「人」という字の物語は、「支える者」と「支えられる者」の役割を固定するものではありません。 皆さんは今、確かに支えられる側にいるかもしれません。しかし、これから高校生、大学生、そして大人になっていく中で、皆さんは誰かを支える側にもなっていくのです。
今度は皆さんが、後輩たちの発射台となる番です。家族を支える番です。社会を支える番です。 そして、さらに重要なことは、人は生涯を通じて「支える側」と「支えられる側」の両方を行ったり来たりするということです。時には誰かに全力で支えられ、時には誰かを全力で支える。それが人間の関係性なのです。
中学卒業という階段を登ると、そこには、高校生活という新しい学びのステージが待っています。そして、10年もすれば、みなさんは社会の第一線に立っているでしょう。 しかし、現在の人類社会の現実は、決して穏やかな側面ばかりではありません。今世界では、国際ルールを無視した戦争行為によって、今この瞬間もかけがえのない命が失われています。このような不確実で困難な時代だからこそ、立命館が掲げる「平和と民主主義」の価値、他者を尊重し、他者と支え合うことの価値が、より一層重要性を増しています。
さあ、いよいよ中学校生活とお別れする時が近づいて来ました。多くの人々に支えられたことに感謝し、これからは皆さんが誰かを支える人になって下さい。一人ひとりが未来のGame Changerをめざして成長し続けることを願っています。
※3月14日中学校卒業式での校長式辞を再構成しました。