今年1月7日のテレビ番組「奇跡体験!アンビリバボー」を見ていたら、とても興味深い話に遭遇しました。

勉強嫌いの高校生たちが独自の勉強法で東京大学への合格をめざす、『ドラゴン桜』(1)は阿部寛主演のテレビドラマにもなりましたので、知っている人は多いでしょう。この作品を生み出した漫画家三田紀房さんの人生は、私にとって大きな学びがありましたので、紹介します。

三田さんが漫画を描き始めたのは、なんと29歳の時 。それまで漫画に全く興味がなく、ちゃんと読んだことすらほとんどなかったそうです。なぜ彼が漫画家を目指したのかというと、亡くなった父親から引き継いだ1億円という莫大な借金を返済するためでした。兄夫婦と実家の洋品店で必死に働いても返済は焼け石に水という状況の中、偶然目にした漫画の新人賞の賞金100万円を手に入れるため、ペンを握ったのです。

普通の感覚なら「経験もないのに無理だ」「今から始めても遅い」と諦めてしまうかもしれません。しかし三田さんは、現実を受け入れた上で、そこからどう突破するかを考えました。彼はまず、人気作品を分析し、「ヒットする漫画にはどんな法則があるのか」という『問い』を立てたのです。構図や台詞のパターンを研究し、試行錯誤を続けながら、何度かの落選を経て入賞するレベルにまで到達しました 。現状をただ受け入れるのではなく、身近なところから問いを発見し、解決策を考える。これはまさに「問いを立てる力」であり、探究する学びに他なりません。

さらに、あの大ヒット作『ドラゴン桜』が誕生した背景にも、常識を疑う「問い」がありました。講談社編集部からの要請を受け、三田さんが学園漫画を描くことになった際、当初は「教師が生徒に『お前ら全員東大へ行け!』と言うのはどうか」と提案したそうです 。ところが、新しく担当になった無愛想な新人編集者の佐渡島さんは「面白くないですね」とキッパリ。理由を尋ねると「だって、東大に入るのなんて簡単じゃないですか」とあっさり否定 。実は、彼は学年の半数が東大に進学する超進学校出身だったのです。自身が現役で東大合格した佐渡島さんにとっては、三田さんの「東大は難関」という常識は、全くの非常識だったのです。

ここで三田さんは、自分の意見を押し通すことはせず、相手の考えを受け止め、「どういう設定にすれば面白くなるか」を徹底的に突き詰めました。その結果、「主人公に『東大なんか簡単に入れる』と言わせるところから物語を始めたらどうだろうか」「勉強嫌いの生徒が集まる、倒産寸前の私立高校を再建する手段として東大合格をめざすという設定はどうだろうか」と、自らの常識に対して新たな問いを立て直し、提案したのです。佐渡島さんは、「それなら面白くなると思います」と意気投合。自分一人の考えに固執せず、他者の異なる視点を尊重して掛け合わせることで、世の中に新しい価値が生み出されました。

みなさんの学校生活、そして社会に出た後の人生は、予測困難な出来事の連続です 。世界を見渡せば、国際ルールが脅かされ、各地の絶えない紛争によって多くの一般市民が命を奪われている状況がある、そういう時代です。

だからこそ、「問いを立てる力」を発揮し、今ある現状や当たり前を疑い、どうすれば解決できるのかを考え続けることが大切になります。意見の違う人と出会い、時には「わかり合えない」と感じる壁にぶつかることもあるでしょう。そんな時こそ、対話を拒むのではなく、相手をリスペクトしながら言葉を交わし続けてください。学校の中の小さな意見の違いや衝突といった身近な場面こそが、自ら問いを立て、「納得と合意」を創り出す力、探究する力を鍛える最高の教材です。

実は、今年の秋に開催する本校20周年記念式典の記念講演会に、三田紀房さんに講師としてお越しいただくことが決定しました。

三田さんの作品には、『インベスターZ』(2)という、お金や経済の歴史や仕組みが学べる人気漫画もあります。朝日新聞において、アイドルグループNMB48の安部若菜さんらが漫画の登場人物とともに経済の仕組みを学ぶ「NMB48のレッツ・スタディー!経済編(3)」が5年前から連載されてきたように、若い世代が経済を学ぶための良質な教材として社会からも注目されています。

本校社会科としても、『インベスターZ』を授業で取り上げる予定です。乞うご期待!

 

※2026年3月19日、中高修了式校長講話に加筆のうえ再構成しました。

注釈
(1) 『ドラゴン桜』講談社、全21巻。元暴走族の弁護士・桜木建二が倒産寸前の三流高校を再建すべく「東大特進クラス」を創設。独自の勉強法と型破りな指導で、落ちこぼれの生徒たちが絶対無理とされた東京大学合格を目指し奮闘する姿を描く受験漫画。
(2) 『インベスターZ』講談社、全21巻。北海道にある中高一貫の超進学校・道塾学園にトップの成績で入学した財前孝史は、学園の資金3千億円を運用する秘密組織「投資部」に強制入部させられる。中高生が実際の投資を通じてお金や経済の仕組み、ビジネスの真髄を学び成長する経済漫画。
(3) 「NMB48のレッツ・スタディー!経済編30」(ただし有料記事)https://digital.asahi.com/articles/AST1V3QKDT1VDIFI00ZM.html