失敗を学びに変える
─「コロンブス」騒動に思う─
Mrs.GREEN APPLE(以下「ミセス」)の新曲「コロンブス」のミュージックビデオが6月12日の公開直後からSNS上で炎上し、翌13日に公開中止となりました。
私は「ミセス」を知らなかったので、まずは楽曲を聴いてみました。コカ・コーラのキャンペーンソングというだけあって、さわやかでドライブ感があり、メロディーが印象的な好感の持てる曲でした。歌詞は少し難解ですが、特に問題は感じませんでした。
一方、肝心の動画については、公開中止となったため閲覧することは叶いませんでしたが、動画の関連写真は見ることができ、またニュース報道から大体の概要はわかりました。
15~16世紀の探検家・コロンブスなどに扮したメンバーが、訪れた島で類人猿と遭遇するという設定だった。コロンブスは、先住民の征服のきっかけになった存在として、現在では負の評価がなされる。類人猿に人力車を引かせる、ピアノや乗馬を教えるといった描写が、人種差別や奴隷制もほうふつとさせるとして、批判された。(1) |
コロンブスと言えば、4年前、アメリカで「ブラック・ライブズ・マター」運動(白人警官が黒人男性を暴行の末死なせた事件を契機に広まった抗議運動)が盛り上がった際、先住民虐殺や黒人奴隷制度のきっかけを作った人物として、全米各地で銅像が引き倒され、破壊されるニュース報道があったことを思い起こします。
ボーカルの大森元貴氏は、公式サイトで次のように述べています。
決して差別的な内容にしたい、悲惨な歴史を肯定するものにしたいという意図はありませんでしたが、上記のキーワードが意図と異なる形で線で繋がった時に何を連想させるのか、あらゆる可能性を指摘して別軸の案まで至らなかった我々の配慮不足が何よりの原因です。〔中略〕 こちらの意図する物語の展開としては、歴史的時間軸は存在せず、類人猿も人の祖先として描きたかった。そして時間の垣根を越えてホームパーティーをする。 これはあり得ない話であり、あくまでフィクションとしての映像作品であると。 ただ、ある事象を、歴史を彷彿とさせてしまうMVであったというご指摘を真摯に受け止め猛省しております。(2) |
確かに、過去の事象が現代に至るまで連続している「時間軸」としての歴史認識、アメリカ社会では未解決の問題が存在する「空間軸」としての社会認識の両方を持てていれば、どこかの時点で、「ミセス」メンバー、制作スタッフの誰かが問題に気づくことができ、今回の事態は防ぐことができたと思われます。
ただ、私が思うのは、歴史や社会の学習にとどまらず、Critical Thinking(批判的思考力)の学びが日本の学校教育でどれだけ実践されてきたのか、という反省です。
起きてしまったことは仕方がありませんし、今からでも遅くはありません。当事者のみなさんを含め、この事象を知った私たちが、アメリカの歴史と社会を様々な角度から、批判的に学び直す良い機会です。
失敗を学びに変えれば良いのです。
「ミセス」のみなさんには、アメリカの歴史と社会について他の誰よりも詳しくなるレベルまで学び、今回の経験を作品の形で世に問うくらいの意気込みで、今後の創作活動を続けてほしいと願っています。
(1) 「朝日新聞」社説、2024年6月28日。
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15968994.html?iref=pc_ss_date_article
(2) Mrs. GREEN APPLE 公式サイト 「『コロンブス』ミュージックビデオについて」2024年6月13日。
https://mrsgreenapple.com/news/detail/20374