久しぶりに熱意あふれる語りに引き込まれる体験をしました。
先日、守山市出身の元Jリーガー、村田和哉さんの講演会に参加しました。現在、村田さんは、「滋賀県に、夢と希望と元気を!」をスローガンに、株式会社人生最幸代表取締役社長として、社会人サッカーチームヴィアベンテン滋賀 代表として、滋賀県にJリーグクラブを創設する活動に取り組まれています。しかし、その活動の本質は、子どもから大人に至るまで滋賀県で学び働くすべての人々を励まし、元気づけ、誰もが夢に向かって生き生きと生きることのできる社会づくりに貢献することにあると、私は受け止めました。

村田さんの人生の原動力となっているのは、数々の挫折経験です。野洲高校2年時に全国高校サッカー選手権で優勝、大学でも全国優勝、鳴り物入りでJリーガー入りした2年後に海外挑戦も結果を残せず、失意の帰国となります。ゼロ状態のところへ、清水エスパルスのオファーを受け、村田さんは、「今まで自分はテングだった。落ちるところまで落ちた自分は、クラブのため、静岡県の人々のために自分の全てを捧げよう」と決意します。

その日から、村田さんの新たな挑戦が始まりました。
自身やクラブのグッズを大量に買い込んで、サッカースクールに自ら出向き、ボールを蹴った後に子どもたちにプレゼントする。地元の飲食店に顔を出し、挨拶がてらグッズを渡す。ついには地元商店街のマンションに引っ越して、地域のイベントに毎回参加する──。2年目には、個人グッズの売上がチームナンバーワンになっていました。スタメン出場がなく、試合終盤の10分しか出ない選手が、なぜグッズ売上ナンバーワンになったのか。村田さんは、「地域のみなさんは、サッカー選手を応援するだけでなく、村田和哉という人間を応援してくれていた」と語ります。村田和哉の第二の人生の始まりでした。

その後、村田さんは、コロナ禍後の2022年から学校での講演活動を始め、現在58校、20,000人を超える子どもたちに語ってきました。内容は、上記の自身の挫折体験をふまえて、「夢はかなうもの」とのメッセージです。これは、誰しも様々な困難や挫折を経験するけれど、「最終的に人生は良い方向にしかすすまない」という彼の哲学がベースになっています。
私が感心したポイントがあります。彼は漠然と「夢はかなう」と言っているのではなく、「夢を口に出し、書き綴ることでイメージを持つ」という具体的行動を提案している点です。彼は以前から「夢ノート」を作り、小さいことから大きいことまで、いつか人生で実現したいことを思いつくまま書き出していき、後で実現したかどうかをチェックすることを実践してきました。そんなことに意味があるのかと疑問に思う人もいるかも知れません。しかし、これは実に意味のあることだと私は考えます。

第一に、夢を書き出すことができれば、それは実現の確実な第一歩となるからです。北海道赤平市で本業の傍らロケットエンジン開発を手がける株式会社植松電機代表取締役社長の植松努氏は、「思うは招く」を座右の銘とし、次のように述べています。

NASAの門に、今から80年前にこの言葉が刻まれました。「Dream can do! Reality can do!」です。「思い描くことができれば、それは現実にできる」という言葉が今から80年前に刻まれました。「感動」という文字が2つも彫ってあります(「can do」を指す──引用者注)。アポロが飛ぶ前です。宇宙開発が始まる前に、「感動」という文字が二つ刻まれたのです。だからきっと感動すれば、僕らは大地を蹴ってどこか遠くまで行けるのかもしれないです。(1)

まずは「思い描く」ことが夢を実現する第一歩だということです。

第二に、思いつくままに書き出すことによって、気づかなかった自分の考えを認識できるからです。自分の感情や思考は、頭の中にある段階では漠然としていますが、書き出して見直すことによって、明確に自覚化されます。人間にとって書く行為は「自己の客観化(見える化)」です。思いつくままに書き出すことは、「発散思考」の訓練になります。

発散思考とは、多様なアイデア、選択肢、仮説、可能性を考え出すことです。〔中略〕発散思考は、高次の思考力のなかに位置づけられるものの一つで、あらゆる年齢層にも教えることのできる思考法です。〔中略〕生徒が発散思考を使うと、よりたくさんのアイデアをつくり出せるようになり、思考も柔軟になるので、学力全体の向上につながるのです。(2)

「発散思考」を知ってから、私も自分の考えを整理する際には、ノートにアイデアを思いつくまま書き出すことを心がけています(3)。

生徒のみなさんには、ぜひ「村田和哉」を検索し、記事や動画で彼のパッションを感じて下さい。そして、「夢ノート」を作ってみませんか。

 

(1) 植松努『きみならできる!「夢」は僕らのロケットエンジン 北海道の小さな町工場が“智恵”と“くふう”で「宇宙開発」に挑む』現代書林、2009年。
(2) ダン・ロスステイン、ルース・サンタナ、吉田新一郎訳『たった一つを変えるだけ クラスも教師も自立する「質問づくり」』新評論、2015年。
(3) 「発散思考」は、書き出したことがらを絞り込む「収束思考」とセットで実践すると効果があります。取り組みやすさでは、「紙1枚」による思考整理を提唱する「1枚」ワークス株式会社代表取締役の浅田すぐる氏(立命館大学卒)の一連の著作を参考に、私も実践しています。