「ポタッ、ポタッ……」
静寂に響く水滴、軽く弾けるバトン。
動き出すリズム、一瞬のブレイク、静かな歌い出し。
「♫ Somewhere over the rainbow〜」
技が決まるたびに湧き起こる拍手。 サビで歌声がシャウトすると、まるで意思を持ったかのように宙を舞うバトン──。

──12月7日、千葉県幕張メッセで開催された第52回バトントワーリング全国大会高校の部において、私は客席から固唾を飲んで見守っていました。
これまでオープンキャンパスやあすなろ祭、関西大会等、この作品の観戦は今回で5〜6回目になりますが、なんといっても全国の頂点をめざして51校が鎬(しのぎ)を削るファイナルの舞台です。観戦する側も緊張します。
15:00ちょうどにチームが登場すると万雷の拍手が送られます。おそらく保護者の方でしょうか、「がんばれー」と明るい声援が飛び交います。
そして、冒頭の場面へ──。

──最後のポーズが決まった後、流れるように退場していく彼女たちを見ながら、私は目頭が熱くなりました。これまで見てきた中で最も魂のこもったパフォーマンスだったと、掛け値なしに思いました。

全チームの演舞が終わって、休憩に入ります。10分が長く感じます。 そして、結果発表。金賞・銀賞の発表へ。 本校チームは「ゴールド!」とのアナウンスがあり、まずは想定通りの展開。 最後に、グランプリの学校が1校だけ発表されます(2位以下は、後日連絡があるしくみ)。

「グランプリを発表します!グランプリは……」
しかし、本校の校名は呼ばれませんでした。

今回、チームが取り組んだ作品は「Over The Rainbow(虹の彼方に)」。1939年のミュージカル映画『オズの魔法使い』の劇中歌で、ジャズのスタンダードナンバーとしても有名です。内容は「鳥たちが虹を超えて飛んで行くように、理想の世界へ私も飛んで行きたい」、要するに「夢を叶えたい」という感じの歌です。

全国の強豪校では、勇ましく、力強く、激しい作品が多い中で、「Over The Rainbow」は、緩急のある構成、繊細で芸術性の高い、まさに珠玉の逸品です。ご提供、ご指導いただいた倉地光悦さんをはじめとするコーチの皆様にあらためて感謝申し上げます。

さて、昨年度全国2位の成果をふまえ、グランプリをめざしてきた生徒たちは、おそらく悔し涙を流したことでしょう。しかし、終了後の円陣や写真撮影での生徒たちには笑顔があり、次に向かって飛び立とうとする前向きな姿が垣間見えました。雨の後、虹の彼方をめざすかのように。

そんなことを考えながら、ハマから吹き付ける寒風を背に、クリスマスの電飾できらめく夜の幕張を横目に、家路を急ぎました。

※12/14追記:その後、バトン協会から報告があり、全国第3位に決定しました!しかも2位との得点は僅差であり、前回に匹敵する成果であることがわかりました。生徒、保護者、顧問をはじめ関係者するすべての皆様、大変お疲れ様でした。そして、ありがとうございました。