雪上の探究から教室の探究へ
─新入生へのメッセージ─
─新入生へのメッセージ─
2月に開催されたミラノ・コルティナ冬季オリンピックでは数々の名シーンが見られましたが、最も世界中を驚かせたのは、スノーボード競技における日本人選手の圧倒的な活躍でした。日本勢はスノーボードにおいて、金4個、銀2個、銅3個、合計9個ものメダルを獲得するという凄まじい強さを見せました。中高生とあまり年齢の変わらない10代や20代前半の若き選手たちが、なぜこれほどまでに強いのでしょうか。
私はその秘密が、本校がGame Changerのマインドとして定めている「4つのリスペクト」を体現しているからだと考えています。スノーボードの選手たちは、このリスペクトを自然に実行しています。
1つめは、「自分自身へのリスペクト」です。 スノーボード競技において最も高く評価されるのは、回転数だけではなく、その選手にしか出せない独自の「スタイル」です。彼らは誰かが決めた正解や、過去の成功者の滑りをただ真似ることはしません。自分自身の個性と向き合い、自分なりの表現を極めようとします。人間は皆、他の誰とも交換できないオンリーワンの存在です。本校での学校生活でも、周りに流されることなく「自分はどう生きたいのか」を自分の頭で考え、自分自身の価値観を大切にしてください。これが一つ目のリスペクトです。
2つめは、「他者へのリスペクト」です。 大会の映像を見ていて私が最も感銘を覚えたのは、ライバルが大技を成功させた瞬間、選手たちが真っ先に駆け寄って抱き合い、自分のことのように喜ぶ姿です。彼らは相手を蹴落とすために滑っているのではありません。共に人間の限界を押し広げる「同志」として、互いの挑戦を心からリスペクトしているのです。本校には、多様な考え方や価値観を持つ仲間が集まっています。意見が対立したときには、相手を力や態度で抑え込むのではなく、対話によって解決の糸口を探る。違いを認め合い、共に高め合う姿勢こそが、他者へのリスペクトです。
3つめは、「社会へのリスペクト」です。 先日のオリンピックにおいて、スノーボード男子ビッグエア銅メダリストの中国選手が「スポーツよりも大切なことがある。僕たちは結果だけを求めてここにいるわけではないんだ。このスポーツの美しさを世界に伝え、人々に刺激を与え、各国の人々と愛を共有すること。それこそが本当に大切なことだ」と語り、話題となりました(1)。彼らは個人の名誉のためだけでなく、自らのパフォーマンスを通して、社会に勇気と希望を与えています。みなさんも、家庭を一歩出れば社会の一員です。自分の行動が周囲にどのような影響を与えるかを想像し、公共の場において謙虚で誠実な振る舞いを心がける。それが、社会へのリスペクトに繋がります。
これら3つの態度はどれも素晴らしいものですが、みなさんに一番強くお伝えしたいのは、最後の4つめ、「学びへのリスペクト」についてです。そしてこれこそが、本校がもっとも大切にしている「探究する学び」の正体でもあります。
スノーボードの選手たちは、空中で5回転、6回転という魔法のような大技を繰り出します。しかし、あの大技は決して「度胸」や「気合」といった精神論だけで飛んでいるわけではありません。 彼らは、自分の滑りを客観的なデータとして分析し、踏み切る角度やスピード、風の抵抗を緻密に計算しています。そして「こうすればもっと上手くいくのではないか」と仮説を立て、エアマットやトランポリンの上で、何百回、何千回、失敗と検証を繰り返しているのです。
この「自ら問いを立て、データを集め、仮説と検証を繰り返すプロセス」こそが、「探究」です。 「学びへのリスペクト」とは、誰かが作った正解をただ受け身で暗記することではありません。未知の領域に対して、失敗を恐れずに試行錯誤し続ける、そのプロセス自体を尊ぶことです。
授業は、教員とみなさんの共同作業で作るものです。疑問があればどんどん意見を出してください。彼らが雪の上で行っている探究を、みなさんはこれから教室で、実験室で、そしてこの自然豊かな琵琶湖を擁する守山で行っていくのです。
新入生のみなさん。 これから始まる学校生活では、新しい友達を作ったり、クラブ活動に打ち込んだり、やりたいことを見つけて、大いに楽しんで下さい。ただし、学校生活の中心は授業であり、探究する学びです。私たち教員はみなさんがワクワクするような学びを全力でサポートします。みなさんも、スノーボードの選手たちのように失敗を恐れず、自分だけの大きな「問い」に挑み、未来のGame Changerをめざして下さい。
※4月10日中学校・高等学校入学式での式辞を再構成しました。
注釈
(1) 「THE ANSWER」サイト
https://the-ans.jp/milano-olympics/632855/