二つの20周年と「デジタル保健室」
─本校の実践が書籍になりました─
─本校の実践が書籍になりました─
2026年は、本校にとって二つの20周年が重なる、特別な節目の年となりました。
一つは、立命館守山高等学校の開校20周年です。2006年4月、守山市立守山女子高等学校からの公私移管により開校した本校は、この春開校20周年を迎えました。翌年の中学校開校により中高一貫校となって以降、大学との接続教育、文理融合、地域連携、サイエンス・グローバル、ICT教育、全国レベルの課外活動を推し進めてきました。近年は、探究による「学びの社会実装化」とAI活用・教育DXを軸に、「未来のGame Changerが育つ学校」をめざして歩みを重ねてきました。その結果、「滋賀の立命館」として社会的評価をいただくに至ったことは、関係する皆様のご支援の賜物に他なりません。
もう一つは、「立命館憲章」の制定20周年です。2006年7月、学園の理念と使命を共有し発信するために制定された「立命館憲章」は、この春20周年を迎え、この間の社会の変化と学園の発展を受け、全学討議を経て改正されました。改正の主旨は、「次世代研究大学・次世代探究学園」の実現に向けた決意と、多様性を尊重し、誰もが等しく持つ尊厳と創発性を尊ぶ姿勢の明確化にあります。
二つの20周年が重なったことは、単なる偶然ではないように思います。現在の本校の教育と、改正「立命館憲章」の底流には、共通して「DE&I(Diversity, Equity, and Inclusion:多様性・公正性・包摂性)」の理念が流れているからです。
本校のICT教育や探究の成果は、ともすれば華々しい側面として語られがちです。しかし、本書を通してお伝えしたかったのは、テクノロジーがもつもう一つの力──「一人ひとりの弱さ」や「見えづらい困難」に寄り添う力──にあります。
学校には、表舞台で活躍する生徒がいる一方で、複雑な背景を抱えたり、教室の空気に息苦しさを覚えたりしながら、自分なりのペースで「低空飛行」を続けている生徒もいます。サイレントマジョリティの声なき声に耳を澄ませ、誰一人取り残さない土壌をつくること。そこにこそ、「DE&I」の理念があり、学校全体の豊かな活力の源泉があるのだと思います。
その実践の結晶の一つが、この「デジタル保健室」です。本書の各章が示すとおり、このプロジェクトは決して上意下達でつくられたものではありません。生徒の小さなSOSに向き合い続けた教員の切実な思いを起点に、メタバースやAIの実装に挑んだ卒業生。言語学・家族社会学・心理学などの視座から教育のあり方を問い直してくださった立命館大学の先生方。そして何より、自らの葛藤や学校との距離感を率直な言葉で語ってくれた生徒たち。多様な学園関係者が、まさにグラスルーツ(草の根)の精神で協働し、知恵を持ち寄ったからこそ実現した共創の形なのです。
私たちがめざすのは、単に最新技術を導入した「先進校」ではありません。効率化のためだけではなく、人に優しく寄り添い、人と人を温かくつなぐ「リスペクト」のインフラとして技術を機能させる環境です。言い換えれば、本校の教育目標である「4つのリスペクト」──Respect for Oneself/Others/Society/Learning──を、日々の教育実践の中で具体化していくための土台づくりです。
デジタル保健室は、誰もが等しく持つ尊厳を大切にし、そこから新たな価値を生み出していくという、改正「立命館憲章」の理念を体現した一つのモデルです。
本校の開校、そして「立命館憲章」の制定から20年という節目に、本書を世に送り出せたことは、学校にとって大きな喜びであり、誇りです。私たちはこれからも既存の枠組みにとらわれず、生徒たちとともに歩みを進めてまいります。
結びに、本書の出版にあたりご尽力いただいたすべての関係者の皆様、そして何より、日々それぞれの空を懸命に飛んでいるすべての生徒たちに、心からの感謝とエールを送ります。
※山村和恵、上田隼也編著『デジタル保健室──学校からひろがるケアリング・ムーブメント』(紫洲書院、2026年)所収の拙稿を転載しました。
※「紫洲書院(しずしょいん)」は、本校卒業生の竹本智志氏が経営する出版社です。
https://shidzu-shoin.com