口より先に、耳を働かせる
─親業トークセッションからの学び─
─親業トークセッションからの学び─
5月30日、本校・PTA共催による「親業講演会&トークセッション」を開催し、50名を超える保護者、高校生に参加いただきました。今回初めて保護者、高校生、講師が共に「親子関係のあり方」について語り合うという画期的な企画が実現。講師にはおなじみ親業訓練協会シニアインストラクターの松浦留美子先生をお迎えしました。当日は、親業サークルの保護者の方が司会進行、運営を担っていただき、「松浦ワールド」全開の講演とトークセッションであっという間の2時間でした。
過去のブログ(1)で紹介したように、本校では2022年度から「親業」を学ぶ講演会やセミナー、講座を実施してきました。「親業」とは、アメリカの臨床心理学者トマス・ゴードン博士が提唱するコミュニケーションプログラムで、「聞く」「話す」「対立を解く」を中心に、「環境を変える」「価値観を伝える」を加えて5つの柱を設定しています。今回のセッションでは、その核心にある「子どもが心を閉ざす12の対応」──子どもが心にストレスを抱えているとき、親がつい口にしてしまいがちで、かえってコミュニケーションを妨げる12種類の言葉(2)──をテーマに話し合いが行われました。
トークセッションでの生徒たちの反応は率直でした。
「言われたことばかりだな、というのが第一印象でした。それが良くない対応だと初めて知って驚きました。『あれやれ、これやれ』と言うのが大人だと思っていたので」
「12の言葉が悪い影響になるという情報が全くなかったので、全てが新鮮でした」
そして保護者からは、「私は『全部やっているのでは』というほど、やってしまっている自覚があります」という言葉も。
それらを受けた松浦先生の言葉は明確です。
| 親がこの12の対応をつい口にしてしまう理由は、親切心です。親切心はそのままで良い、親としての愛もそのままで良い。ただ、その愛を『しゃべる』口の仕事にしないで、『聞く』耳の仕事にエネルギーを振り分けてください。 |
子どもへの愛そのものは問題ない。問題は、その愛を口から注ぎ込もうとする「方向」にある。相手の心がマイナスの感情でいっぱいのとき、さらに言葉を注いでも溢れるしかありません。まず「聞く」ことで、心に余白をつくる。余白があるからこそ、初めて言葉が届く。過去のブログで引用したトマス・ゴードンの言葉──「親の受容も、子どもに伝わらない限り、子どもには何の影響も与えない」──の意味を、改めて実感した瞬間でした。
特に印象的だったのは「急に変わることへの不安」というテーマです。ずっと「指示」することで育ててきた子どもに、ある日突然「聞く」親になろうとすると、確かに子どもは戸惑うかもしれません。しかし、松浦先生が紹介してくださったある母親の話が、会場の空気を静かに変えました。ある母親は、子どもの高校受験期に覚悟を決め、「勉強しろ」を一言も言わないことにした。「失敗してもこの子は大丈夫」と結果を見る前に信じると決めた。やがてその子は自分で勉強するようになり、希望の高校に合格した、という話です。重要なのは結果ではなく、親が「信じ抜く」と決めたこと。その覚悟の強さに頼もしさを感じました。
最後に、登壇した生徒の感想を紹介しておきます(ちなみに、発言の主は高校3年生の細岡生徒会長です)。
| 僕も人間、親も人間、大人もみんな人間です。互いに「隙」があることを子どもの頃から知っておき、その前提で関わることが大切だと思いました。子どもの立場として親にわがままを言うのではなく、親や大人の意見を聞き、理解した上で自分の考えを伝える。その積み重ねがコミュニケーションを築いていくのだと感じました。コミュニケーションの取り方は生涯にわたる課題だと思うので、今日教えていただいたことを基に、建設的なコミュニケーションを取れるよう考えていきたいです。 |
子も親も、完全ではない。だからこそ、互いに学び、聞き合う関係が大切なのではないでしょうか。「親業」が問いかけるのは、単なる「テクニック」ではなく、人と人との関わり方の根本です。
愛は持っているだけでは届かない。「口より先に耳を働かせる」ことで、初めて愛は伝わる。そのことを、あらためて学ぶことのできたトークセッションでした。
〈注釈〉
(1) 「校長独言No.7 愛だけでは伝わらない」(2024.6.12)参照
https://www.mrc.ritsumei.ac.jp/blog-principal/blog_principal-116116/
(2) トマス・ゴードンによると、多くの親は下記の「お決まりの12の型」を日常的に使っているという(松浦氏作成資料より)。
①命令、指示 ②注意、脅迫 ③訓戒、説教 ④忠告、提案 ⑤講義、論理の展開
⑥批判、非難 ⑦賞賛、同意 ⑧悪口、辱め ⑨分析、診断 ⑩激励、同情
⑪質問、尋問 ⑫中止、注意をそらす