戦争だけが平和の対義語なのか
─副総長と生徒が語り合った立命館憲章─
─副総長と生徒が語り合った立命館憲章─
先日、学校法人立命館の高山茂副総長を本校にお招きし、生徒会役員の中学生3名、高校生5名とともに、改正されたばかりの立命館憲章について語り合うタウンミーティングを開催しました。いわば、立命館憲章の「普及活動」です。高山副総長は、3年半ほど前、立命館大学理工学部から本校の技術室に「空間共有システム」(1)をご提供いただいた当時の学部長であり、私自身も以前から親交のある先生です。
対話を終えたあと、ある生徒がぽつりと口にした言葉が、今も耳に残っています。
「立命館憲章が改正されるまで、憲章そのものを読む機会がありませんでした。」
考えてみれば、それも無理のないことかもしれません。憲章は、普段、校舎受付の向かい側に掲げられている静かな存在です。あらためて読んでみようと思う機会は、そう多くありません。しかし、この日の対話を通して、その静かな一枚に実に多くの思いと言葉が凝縮されていることを、生徒たちとともに確かめることができました。
立命館憲章が2006年に制定されてから、今年でちょうど20年。この間、大学は発展し、各附属校も改革を重ね、本校も大きく飛躍を遂げてきました。立命館はこの20年の歩みを踏まえ、さらに10年、20年先を見据えて、憲章を改正することを決めました(2)。
この日、最も議論が深まったのは、「平和」という言葉をめぐってでした。
旧憲章では「世界と日本の平和的・民主的・持続的発展に貢献する」と表現されていましたが、新しい憲章は「持続可能な社会の創造と世界の平和の実現に尽くす」という言葉で締めくくられています。一見わずかな違いのようですが、実は1年半にわたる改正議論の中で、この表現に多くの時間が費やされたのです。
改正議論が進められたのは、戦後80年という節目を迎えた時期でもありました。高山副総長は、生徒たちにこう問いかけました。
「平和は、戦争の対義語としてしか成立しないのでしょうか」
これに対して、ある生徒がこう返しました。
「戦争の対義語が平和というのは分かりますが、平和の対義語が必ずしも戦争とは限らない、と考えます。平和じゃない場面って、戦争以外にもたくさんあると思います」
いじめやハラスメントのない日常――そうした「身近な平和」という視点が、このやりとりから自然に浮かび上がってきました。私は以前の校長ブログで「戦争・暴力の反対語は何か」(3)について書いたことがありますが、高山副総長が、別の角度から問いを投げかけられたことに強く興味をひかれました。憲章の一つひとつの言葉が、遠い理念としてではなく、教室や学校での私たちの日常と地続きのものとして語られていたことが印象的でした。
生徒たちの関心は、大学の柱である「研究」と、附属校が大切にする「探究」に及びました。
高山副総長は次のように語りました。研究の根源にあるのは、「知りたい」「見つけたい」という人間の欲求そのものであること。一方で、その欲求を実現するための資金の多くは、学費や外部からの支援という「人のお金」によって支えられており、研究者には強い責任が伴うこと。だからこそ「研究の自由」とは、テーマの設定や、どこまで踏み込むかという範囲における自由であり、常に「責任を負える範囲」という前提の上に成り立つのだ、と。
ある生徒は、探究について率直な思いを口にしました。
「押し付けられたテーマだと、あまり頑張れない気がします。自分で工夫していくプロセスそのものが、探究の面白さだと思います」
この言葉に、高山副総長も深くうなずいていました。いわゆる「やらされ探究」は、なかなかうまくいきません。テーマは本来、生徒自身が見つけるものであってほしい。その一方で、そこに至るまでのヒントや出会いを用意することは、私たち教員の大切な役割に他なりません。
対話の終盤には、「利己」と「利他」という言葉にも話が及びました。自分の知見を独り占めせず、他者と分かち合う「利他」の姿勢が、めぐりめぐって自分自身にも返ってくる。そうした考え方もまた、憲章が掲げる「平和」の、具体的な姿の一つなのだと感じます。
会の最後に、高山副総長は生徒たちにこう呼びかけました。
「今日話し合ったことを、ぜひ家に帰って、ご家族に話してみてください」
本校受付の向かい側の壁には、新しい立命館憲章のプレートが掲げられています。普段はあまり意識されることのない、静かな一枚です。しかし今回の対話を通して、その一枚に刻まれた言葉の重みを、生徒たちが少しずつ受け止めていく姿を見ることができました。
冒頭に紹介した生徒の言葉──「憲章そのものを読む機会がなかった」──は、裏を返せば、これから読む機会はいくらでもある、ということです。朝、校舎に入るとき、ふと左の壁に目を向けてみる。そんな小さな習慣から、立命館憲章の言葉の数々──「自由」「平和」「多様性」「研究」「探究」──が、生徒一人ひとりの日常の中に、静かに根を下ろしていくことを願っています。
注釈
(1) 「空間共有システム」とは、立命館大学BKCキャンパスにあるグラスルーツイノベーションセンター(GIC)が、高大連携の推進に向けて展開するローカルシステムの総称です。液晶プロジェクター、インタラクティブ・ホワイトボード、アバターロボット、3Dプリンター、レーザー加工機など多様な機材で構成され、遠隔連携での運用や、正課・課外における探究活動などに活用されています。
(2) 「校長独言68 歴史の痛みを知り、教室から平和をつくる。─『立命館憲章』から学ぶリスペクト・マインド─」(2026年4月9日)を参照のこと。
https://www.mrc.ritsumei.ac.jp/blog-principal/blog_principal-261218/
(3) 「校長独言23 戦争・暴力の反対語は何か ─戦後80年への決意─」(2025年1月11日)
https://www.mrc.ritsumei.ac.jp/blog-principal/blog_principal-156798/